反抗期と価値観
「アンタは今が反抗期だね」と言われる。もういいおっさんである。
「子供の頃に反抗期が無かったから今反抗するようになったんだよ」とも言われる。
確かに、アタシは子供の頃に反抗期らしきものが無かった。
特に反抗すべきことが無かったように思う。
アタシの育った家庭は放任主義だった。新聞に載るような悪いことはしちゃだめだとは言われたし、一通りの礼儀作法みたいなものは小学校の低学年頃までに教えられたが、あとは自分で考えて自分の思うとおりに出来る家庭だった。
まあ、裕福な家庭ではなかったから金銭の自由が利かないことは子供ながらに分かっていた。
思春期の一般的に反抗期になる時期には、父親は冬の期間いわゆる出稼ぎ労働者となって家に居なかったし、母親も物心ついた頃からずっと働いていた。共働き家庭だったこともあって、ひと通りの家事は自分で出来たし小さな頃から手伝っていたので、親からも感謝されることはあっても、あーしろこーしろという面倒なコトはほとんど言われなかった。高校を卒業し、実家を出て一人暮らしをはじめる時だってひとりで住む家を探しに行き、契約手続きをして、引っ越し自体も親戚のおじさんの営業車のトランクに荷物を積んでもらってひとりでやってきた。親の手を借りたのは契約書にハンコを押してもらうくらいだったように思う。また親父自身も子供のようなワガママオヤジだったので、まったく世の中のお父さんとは違っていたんだと思う。
そんなわけで、特に反抗する理由もなく生活してきたので時期を逃したのだと思う。
「アンタは今が反抗期だね」と言ったヨメはずいぶん親に反抗してきたようだ。
アタシが「何に対して反抗したんだい?」と聞いたところ、
「自分の価値観を押しつけてきたから反抗した」と言う。
なるほど。
アタシの親は自身の価値観を押しつけてくることはほとんど無かった。アタシ自身がどうしたいのか? 正しいことなのか? 悪いことなのか? 周りの人はそれをどう思うのか? そんな選択・判断基準・価値基準がアタシの家のルールだったように思う。
今、アタシは反抗期だと言われる。
そりゃそうだ。あなたはあなたの価値観をアタシに求めているんだから。
「自分の価値観を押しつけてきたから反抗した」と言ったが自分自身もそうなっているとはまだ気付いていないようだ。
アタシはまだそこを指摘しない。今のあなたにそれを言うのも酷なような気がしているしれば自分で気が付いてほしい。
そんなふうに思った。